ミュージカル座
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No.3  

No.5

-No.4-

日本初のミュージカル劇団ジョイントフェスティバルとして企画上演された「That's Musical !」、いかがでしたでしょうか。

今年の4月。夜中の12時半ぐらいに瀬川昌久さんから自宅に電話がかかってきて、8月にミュージカル劇団のジョイントフェスティバルをやりたい。すでに劇団スイセイ・ミュージカルとザ・ライフ・カムパニイの参加が決まっていて、ミュージカル座も参加しませんか、ということだった。前売情報への締切りが迫っているので、今すぐ返事がほしいと言われ、「う〜ん・・・参加いたします。」と返事をした。ちょうど私は、黒木瞳さん主演の「ママ・ラヴズ・マンボV」の稽古真っ最中で、深く考えるヒマは全然なかったのだけれど、博品館劇場で各劇団が45分ずつのミュージカルを競演する日本初のジョイント公演と聞き、断ろうとは考えなかった。「参加できる」と判断したのは、電話で内容を聞いて即座に、「三人の花嫁」なら45分の作品として出品し、勝負出来る、と頭に浮かんだこと。劇団員に博品館劇場で大きな役を経験してもらえるチャンスだと思ったこと。そして全体としては3話のオムニバス・ミュージカルになっているという公演企画の面白さだった。

公演プログラムにも書いたことだが、私はニューヨークのリンカーン・センターで見た「コンタクト」が好きで、日本でもこういう3話のオムニバス・ミュージカルをつくってみたいと思っていたところだった。さらに、かつて野沢那智さんの演出で薔薇座が上演した3話のオムニバス・ミュージカル「アップル・ツリー」に感銘を受けたこともあり、3劇団がそれぞれ個性の違う短編を披露し、全体で3話のオムニバス・ミュージカルをつくり上げるというお話に、強くひかれてしまったのだ。

公演期間を通じて、やはり私は、この3話のオムニバス・ミュージカルの面白さと可能性について考え続けていた。「コンタクト」は、一見関係なさそうな3つの話が並んでいるけれど、すべて“スウィング”という言葉に繋がっていて、3話ともダンスによってドラマが表現されるという統一感がある。「アップル・ツリー」は、3話とも“男と女と悪魔”という共通の主題で構成されており、第1話は古代、第2話は中世、第3話は現代という時代設定もニクイほど頭のいい作品だ。優れたオムニバス作品には、バラバラの3つのドラマが、ラストシーンで全体を覆うテーマとなって見事に響きあう仕掛けがある。いわゆる「脚本のヘソ」を打つことによって、第3話の最後に、第1話と第2話が響き合ってもう一度思い起こさせられれば成功だ。今回の公演では、3話に統一した作品主題をもたせるのは無理だったけれど、企画監修の瀬川さんは、それぞれ違ったスタイルの3つのミュージカルの競演が面白いと主張されて、第1部はミュージカルドラマ、第2部はミュージカルコメディ、第3部はミュージカルショウというジャンルの広がりと多様性を見せる作品構成となった。

作品の順番は、瀬川さんを含めた各劇団代表の話し合いでチラシ作成前に決められた。ザ・ライフ・カムパニイと劇団スイセイ・ミュージカルは、両作品ともダンス場面が多く15人以上の出演が予定されていたので、著しくスタイルと人数の違うミュージカル座の「三人の花嫁」が真ん中にはいることになった。華やかなショウを得意とするスイセイ・ミュージカルにトリをお願いして、フィナーレを盛り上げてもらおうということで、今回の順番が決まった。私は、3話のオムニバス・ミュージカルの第1話、第2話、第3話は、野球の1番バッター、2番バッター、3番バッターの役割に似ているなと感じていた。第1話を担当する作品は、野球で言えばイチローのような1番バッターだ。とにかくヒットを打ってまず塁に出ること。足が速いことも重要だ。すなわち、テンポのよいヒット作でまずお客様の気持ちを乗せること。続く第2話は、塁に出た走者をバントでもバスターエンドランでも進ませて次へ繋ぐことが出来る、デレク・ジーターのような2番バッター。そして第3話は、もちろんホームラン・バッターだ。アレックス・ロドリゲスのように豪快なホームランを打って、塁に出た走者を全員ホームに返すことが出来れば、作品は成功だ。

実は、初日前日に、順番を変更した方がいいのではないかという議論が沸き起こった。第1部のドラマのテンポが意外にゆったりしていたので、テンポの早いコメディである第2部を最初に持ってきて、スイセイ・ミュージカルのショウに繋ぎ、最後にじっくりとドラマを見せた方がいいのではないかという意見だ。スタッフ全員が集まって真剣な話し合いとなり、結局チラシ通りの順番で行くことになったが、こうした試行錯誤は、オムニバス・ドラマをつくる上での興味深い創作過程だった。

また、45分という持ち時間が、各劇団の作・演出家の頭を悩ませる問題だったことは間違いない。普段、劇場作品を創作している者は、ドラマづくりを2時間〜2時間半という時間の中でとらえている。45分という時間でひとつの作品をつくった経験はなく、各劇団もそういう作品は持っていないのが通常だ。45分のドラマには気のきいた短編小説の味わいが必要だが、長編小説をそのままカットしても短編小説にはならず、理想を言えば、45分のために書かれた作品が必要だ。この45分という時間はなかなか微妙な時間で、面白ければあっという間だが、退屈な場合は結構長く感じられる時間である。エピソードを早く展開させ、無駄なく短時間で本題にはいらないと描ききれないし、急ぎすぎても観客はついて来られず、感動の山をつくれない。脚本家の手腕が試される面白くもきびしい設定だとドキドキしたが、これはもし来年以降もこのスタイルで「That's Musical !」を続けるとすれば、各劇団が優れた短編ミュージカルを準備できるかどうかが必須条件となりそう。

もう一つ、私が今回初体験だったのは、2回の途中休憩をはさむ三幕形式の上演である。「ひめゆり」「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」のようなオーソドックスな二幕形式と、「舞台に立ちたい」「ママ・ラヴズ・マンボ」のような2時間以内で終わる一幕形式の作品しかやった経験がなかったからだ。三幕形式というのは、昔のブロードウェイの形式であるのだが、これがなかなか素敵な感覚で、私は楽しんだ。ひとつ終わるたびにロビーに出て頭を冷し、知人と感想を話し合ったり飲み物を飲んだりしてまた座席に戻ることの繰り返しが楽しく、座席とロビーとの両方でミュージカルを楽しんだ感覚をいつもより強くもった。もちろん、一幕、二幕形式より上演時間は長くなってしまうのだが、昔の人はこうして劇場を楽しんだのだろう、と想像していた。最近は生活のテンポが速くなり、プロデューサーから作品を短くしてくれと頼まれることはあっても、長くしてくれと頼まれることはあり得ない。最初から帰りの時間を気にしているような製作の姿勢が見られ、長い作品はカットされることも当然と思われているのだが、せっかく劇場に足を運んだからには、時間を気にせず、ゆったり三幕形式の舞台を楽しむことも悪くないと思ったのだった。

普段、あまり交流のないミュージカル劇団が、一緒に協力しながらひとつの舞台をつくることは、劇団に大きな刺激を与えてくれる。私は総合演出をやれと命じられたため、フィナーレの演出・振付で各劇団の稽古場を回ったりしたので、各劇団の稽古中の雰囲気や劇団員の姿勢などが肌で感じられ、勉強になった。劇場でも出番の直前まで楽屋の通路で熱心に稽古を続ける劇団スイセイ・ミュージカルの出演者の姿を見て、自分の劇団では見たことのない光景だったので、びっくりすると同時に、いたく感心してしまった。公演に参加した劇団員たちも、各劇団の雰囲気の違いなどに興味を持って、熱心に話し合っていた。劇団というものは、ともすると閉鎖的、排他的な集団になって、劇団の常識は外部での非常識になってしまうことがある。私などはそういう集団にしたくなくて、劇団の垣根をなるべく低くすることにつとめてきたが、こうした合同公演は、そうした劇団の垣根をとっぱらい、お互いの違いを認めながら友好関係を築いて行く、いい機会だと思った。

公演プログラムなどには記載されていないことだが、今回ミュージカル座の「三人の花嫁」に主演した鈴木智香子と、劇団スイセイ・ミュージカルの「贈り物〜ミュージカルの神様」に主演した吉田要士君は、かつての舞台芸術学院ミュージカル部別科の同級生である。卒業公演で姉と弟の役を演じ、卒業後、別々の劇団へ進んだ。普通なら舞台で共演することは難しいはずだったが、このフェスティバルが10年ぶりで二人を同じ舞台に上らせてくれた。ザ・ライフ・カムパニイの「マンハッタン・プリンセス」でポリアンナ役を主演した工藤絵理香さんにも、昔、演技を教えたことがあり、私にとっては、奇しくも3劇団の主役が教え子の競演という、幸運な再会が実現した舞台となった。

そうした嬉しい再会が出来たのも、彼らが10年以上、ミュージカルの世界で俳優として活躍し続けてきたからに他ならない。ミュージカル俳優は、基本的には個人の実力勝負で、オーディションからオーディションへと渡り歩いていくものだ。例えて言えば、荒海の中を自力で泳いで行くようなもので、実力がなければ、そう長くは泳げない。泳いでいるうちにオーディション合格にたどりつけなければ、溺れてしまう。劇団はそうした自力で泳いで行く俳優たちの「浮輪がわり」になって、長く泳いで行けるよう支えてくれる効果があると今回、思った。長く続けていくことが出来ればチャンスもそれだけ増えるし、今回のような再会の舞台もいつかは回ってくるものだと、教えてくれたジョイントフェスティバルだった。

毎年2月の恒例となった東京芸術劇場ミュージカル月間に続き、この博品館劇場におけるミュージカル劇団ジョイントフェスティバルが、毎年恒例のイベントとなって発展し、より多くのミュージカル劇団の参加で盛り上がって、日本のミュージカル劇団の交流とファンの拡大の場となっていくことを願いたい。今回、ミュージカル座の代表として参加した鈴木智香子、片桐和美、村上由香の三人も、期待に応えて4回の公演をよく演じきってくれた。こうしたミュージカルコメディは、個人の技術と魅力、そして笑いに対するセンスを持っていないと全く成立しないものである。つまり、誰にでも出来るものではないのだが、ミュージカル俳優としては高難度のコメディエンヌの領域をよく理解して、自発的にリアルにコメディを演じてくれていたことを評価したい。

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